ボンクラtoビッチ(映画「(500)日のサマー」)

☆×5

ボンクラがボンクラたる映画は傑作になりうる。
「キックアス」「スコット・ピルグリム」「スパイダーマン」はボンクラが成長していくヒロイズムが魅力だが、この作品は悪役も怪人もマフィアも出てこない。乗り越える壁や克服するトラウマもない。おまけに男として成長もしない*1

ていうかさ、仕事中にチューしたり、IKEAでイチャイチャしたり、一緒にAVを見ながらアクロバティックプレイを試そうよ!とか言ったり、「友達」なのにSEXはするなんて、正直サマーってビッチという表現すら生ぬるいズベ公だよね。



あらすじ
グリーティングカード会社に勤めるボンクラのトムはある日、新人の社長アシスタントのサマーに一目惚れした。
サマーは「恋人とかどうでもいいし」といいつつトムと“恋人状態”になるが・・・。

スパイダーマン」はボンクラがヒーローになり、やっぱりボンクラに戻るが、結局ヒーローとしての道を選ぶ。
「(500)日のサマー」では、ボンクラはサマーのためのヒーローになろうとするが拒否され、それでもヒーローとして振る舞うがかわされて振られ、やっと自分が「通行人A」だったことに気づく。男子の感情移入しやすいキャラクターだ。

反対にサマーは論理立てて恋人関係の証明を迫るトムに対し、「別に〜、ていうか友達だし」とすべてが気分で理詰めが通じない。「何なんだよ!」と思う男性諸氏は多いだろうけれど、女の子なんてそんなもの。トムのようなボンクラには理解できない人種だろうなあ、と納得できる。


この映画の素晴らしい点は、「(500)日」にあるように、「トムがサマーと会ってからの〜日」を基準にした斬新な演出。冒頭は480日目の2人の終わり、その直後に1日目の2人の出会いと時間軸はバラバラで、ミュージックビデオ出身のマーク・ウェブならではのこの演出がダメな人はダメかもしれない。*2
また、トムのボンクラ視点で描かれているので、画面を2分割して「希望」「現実」を同時並行に進めるシークエンスは爆笑必至といえよう。

ボンクラの星、トムくん

評論ではトムは「草食系男子」とされているが、ちょっと違う気がする
のれんに腕押し、新聞の押し売り、エスキモーにアイスクリーム。トムはサマーにアタックしまくっているのだ。草食系ではなく勘違いしやすいナイーブ系妄想男子、つまりは普通のボンクラではないか。だって草食系がシャワールームでアクロバティックプレイをしたり人通りの多い公園でサマーと「penis!」などと叫ぶわけがないじゃないか。
本当の草食系っていうのはだな、この映画に登場さえしない「サマーの尻から胸までジロジロ眺め回してキモがられるようなヤツ」なんだよ!

余談ですがそんなナイーブ系妄想男子のわたくし、この作品を気に入った彼女と飲みに行った帰りにススキノを歩きながら2人で「penis!」と叫んだことがあります。あれだよね。「オ○○コ!」「チ○コ!」と違って英単語にすると羞恥心なく叫べますよね。 チンコ!

トムはボンクラであることを除けばいまどきの若者。スミスを愛しベストにコーデュロイパンツでシャレオツ*3に決める。過去にベスト男子だった自分としては、あのころの自分のセンスに吐き気がする。

浮かれながら「あのアザさえチャーミング」「ふぞろいな歯並びもキュート」「スラッとしたスタイル」とサマーを思い出すシーンは「バカだなあコイツ」と微笑ましく見てしまうが、その後「あのゴキブリみたいなアザ」「気持ち悪い歯並び」「実は貧乳」と正反対の暴言を心の中でだけで吐く姿は多くのボンクラの共感を呼ぶに違いない。分かるぞトム!
でもな、貧乳はステータスなんだよ!巨乳はスクリーンの中だけでいいんだよ!


彼を演じるジョセフ・ゴードン=レヴィットは一躍この作品でメジャーになり、その後「インセプション」のアーサーで大ブレイクしたのは周知の事実。見た目はイケメンなのにこの作品では違和感のないボンクラというのは重要なファクターなのではないか、と思う。

ベストシーン

  • 「希望」「現実」シーン。希望の精神的童貞っぷりに笑った(現実はまさにその通り)
  • ボンクラはボンクラを呼ぶ。友人たちとのボンクラトーク
  • エンディング
  • オープニングの「クソ女」呼ばわり

「別れるのは残念だけど楽しかった。どうもありがとう



言うワケねーだろ、死ねビッチ!ヴォケ!」という心の叫びには全面的同意したい。





そしてこの「(500)日」のカッコと500という数字。480日でサマーと最後の別れを告げるのになぜか。これはエンディングに明らかになる。ボンクラの願望かもしれないが、ぼくはこれを支持したい。朝から昼、そして晩。季節は順番通りに巡っていく。夏の次には秋が来るのだから

映画×短歌

・青空が見えたと思えば暴風雨 春は似ている女心に
・「ありがとう」笑顔で言ってさようなら(なわけねェだろこのクソ女!)

*1:劇中ではね。ラストではちゃんと再就職するし春から秋になるけども

*2:ちなみに自分の母に勧めたところ「日にちが切り替わりすぎてよく分かんない」と酷評された

*3:死語