俺たちは、君のためにこそ死ににいく(映画「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」)

☆×4

雨のマカオ。高級住宅街で一家惨殺事件が起きた。被害者は中国人会計士とその息子2人。かろうじて生き残り犯人を目撃したフランス人の妻の父・コステロ(ジョニー・アリデイ)は重体の娘から「復讐を」と請われる。
コステロが地元警察から盗み出した現場写真すべてに「Vengeance(復讐)」と書いている一方、殺し屋トリオのクワイ(アンソニー・ウォン)、チュウ(ラム・カートン)、フェイロク(ラム・シュ)は、マフィアのボスの妻とその愛人の殺害を依頼される。3人はコステロが滞在するホテルで仕事を終えたが、コステロに目撃されてしまう。しかし捜査線上に上がった「顔に傷のある男」チュウを面通ししたが「知らない」というコステロ

そしてコステロは釈放されたチュウを尾行。逆に囲まれるが「仕事を頼みたい」と言う。



この作品は「ザ・ミッション/非情の掟」「エグザイル/絆」に続くジョニ・トー香港ノワール友情3部作の完結編ともいえる。
アンソニー・ウォン(秋生兄貴)の役名がクワイ(鬼)で統一されていること、デヴ・フェイロクとクールなチュウのキャラクターなど、既存作品との相似は多い。香港マフィアに身を置く男たちのパラレルワールドでもあり、上記2作の再構成再演ともいえる。ただ今作はフランスから初めてマカオを訪れた完全なる異邦人・コステロが男同士の友情にスパイスをほどこしている。

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さらにコステロが「記憶を失っていく奇病」「いつすべてを失うか分からない過程」をスリリングに見せている。
襲撃事件の事情聴取翌日に地元警察(これがなんとマギー・シュウ)に遭遇し、「どちらさまでしたかな?」というシーンは老人のオトボケにしか見えず、写真に「Vengeance(復讐)」と書くシーンも復讐に狂いつつある姿そのものでしかない。その後、秋生兄貴たちの写真を撮影し「忘れやすいんだ」とうそぶくシーンで、やっと記憶障害への暗示がある。しかし最終的に奇病について明かされるのは後半だ。

トー映画の特徴として第一に挙げられるのが「沈黙」だ。「エグザイル/絆」の冒頭の銃撃戦直後に全員で食卓を囲むシーン。ここでは黙々とした食事のようで実は男たちの友情を表現している。「ひとつひとつのシーンに意味を持たせる」という野暮で過剰な考えはない。
この「冷たい雨に〜」でも、クワイはほとんど言葉を発しない。陽気な殺し屋、陰のある殺し屋、と多くのステレオタイプの中から「沈黙の殺し屋」をチョイスしたように思えるが、おそらく「語る必要がない」。その分フェイロクがお約束キャラになってバランスが取れている面もあるだろう。


もうひとつのトー映画の最大の見せ場。いわゆる「トー飯」。「ザ・ミッション」の最後の晩餐のフカヒレ、「エグザイル」の家庭中華料理といった登場人物を結びつけるシーンが多用される。しかもこれがおいしそうで食欲をそそる!
今回は異邦人に作ってもらう洋食だ。冒頭でコステロの娘がいかにもおいしそうな夕食の調理シーンから惨劇が起こるが、その後コステロたちが訪れ、3人による現場検証とプロファイリング最中にコステロが「娘の用意した食材を食べてもらいたい」と廃墟と化した家でのガーデンディナーが催される。
バクバク食べるフェイロク、注意深くコステロを探るクワイ、半信半疑のチュウ、それぞれの思惑が氷解するこのシーンは、言わずもがなべストシーンだろう。

付け加えるならば、居眠りするフェイロクに投げつけられる落花生は「ザ・ミッション」のセルフオマージュ。一方、家庭的で豪華ではないがビッグ・ママと子供たちが囲む食卓とプラスアルファのシーンは、これまでの「トー飯」にはないブラッシュアップをほどこされたといっていい。

最後はやはり銃撃戦と死に様。香港映画界ではジョン・ウーがいて、ハリウッドにはタランティーノがいる。だがトー映画の両手撃ちも負けていない。



ベストシーン集
・何を失おうが常にスーツ姿だけは決まっているコステロの凛とした老人姿
・3人衆とボスの古紙ゴロゴロ銃撃シーン(タバコはやめねぇ!という素敵な意志)
・シールから穴につながるコステロの機転が光る銃撃戦
・ラストの食事シーンの笑顔


・いつまでもやめるわけない酒タバコ かっこわるくてださくっても