マトリックス・リジェネレーション(映画「インセプション」)

☆×5

注:ネタバレのないよう書いてあります。

他人の深層意識(夢)からアイデアを盗み取るコブ(レオナルド・ディカプリオ)は相棒アーサー(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)とともにサイトー(ケン・ワタナベ)の意識に侵入したが失敗する。しかしそれはサイトーによるテストで、真の依頼はライバル企業の後継者ロバートの深層意識に「事業継続の意欲喪失」をインセプション(植え付け)することだった。
インセプションは盗むより難しく失敗のリスクがはるかに高い。だがサイトーは指名手配により米国に入国できないコブの念願、帰国と犯罪暦の抹消を報酬にぶらさげる。コブは夢の設計士アリアドネ、偽造師イームス、調合師ユスフのドリームチームを組み、ミッションに挑戦する。


バットマン・ビギンズ」「ダークナイト」で明のヒーローの闇をあぶりだしたクリストファー・ノーランの新作。
痛快アクション、ハラハラ怪盗劇、ドキドキSF、悲恋、すべての要素が詰まった大傑作クリストファー・ノーランがまたもやってくれた! 
それだけではない。ノーラン映画の代表作、2010年のベスト映画といっても過言ではないし、2010年代を代表しかねない怪作・傑作といっても大げさではない

1990年代 マトリックスの電脳世界
2000年代 アバターの3D世界
2010年代 インセプションのここは現実じゃない世界

「映画の影響」の点ではいじめっこを射殺した「ボウリング・フォー・コロンバイン」という良作もあった。この作品も、現実からの逃避してしまいたくなるほど、リアルとフィクションのあいまいさをインセプション(刷り込む)する可能性はあるかもしれない。


「列車ドカンドカン」「ぐるん!と回転する町並み」「レオと設計士アリアドネの周囲だけが飛び散る風景」といったSF要素やアクションだけではない。レオのトラウマである崩れ落ちる海沿いのビル群、無重力の深層意識の階層(ネタバレ回避のためぼかしました)、ミッションを表す雪山と表現力も多彩だ。


キャラクターもよい。(500)日のジョセフ・ゴードン=レヴィットのクールさ、イームスのセクスィー胸元、大人になったエレン“JUNO”ペイジ、怪しいユスフ、ノーラン・バットマンスケアクロウから一転難しい役どころをこなしたトム・ハーディーなどキャストも魅力的。
(500)日のアーサーがクールなようで実は激情家というのも「(500)日のサマー」のトムと違う一面があって素敵だった。

コブのトラウマ、夢に現れるマリオン・コティヤールはコブのメンタルに左右されるという点(B1に降りる〜のシーン)は観客視点では「なんでよ!おまえプロやんか!」というハラハラ感があって、見る側も忙しい。
トラウマや深層意識って、無意識に出るものであるわけだから、ハンターハンター」でキルアの頭の中に針を埋め込んで、戦う場面になったら「ニゲロ」という暗示をかけたイルミみたいなものか? そうだとしたら*1富樫先生すげぇよ!


そしてもちろんわれらがケン・ワタナベも「予告編以上の出番はあるのか…?」を払しょく、*2八面六臂の大活躍。


148分を長く見せないスピード感もさるものながら、ハンス・ジマーの不協和音的な音楽も神経を逆撫でて不安をあおるような効果があり常時緊張しっぱなし。ノーランが子供のころから不思議に思っていた「夢(深層意識)」をそのまま膨らませたこれまでにない設定や演出も、「2010年代にはインセプションがあった!」といわれてもおかしくないと思う。
1970年代の「2001年宇宙の旅」で新たな宇宙の設定ができ、1990年代にカンフーやアニメ・電脳世界をごった煮にした着想から「マトリックス」の製作。2010年代冒頭に夢から「インセプション」が作られ、電脳世界とも共通点を持つ複層式深層意識が描かれた。リ・ジェネレーションとも、リ・サイクルともいえる「新世界」を表現した斬新な映画をスクリーンで見ることができ幸せである。

個人的に近年はまあまあな作品ばかりだったレオが、「シャッターアイランド」「インセプション」と連打で新たな代表作をつかむというのもすごいね。

ベストシーン集
・オープニングのケン・ワタナベの存在感
無重力ぐるぐる状態でのJGLのバトルシーン
・バン、ホテル、病院の複雑な3連続「キック」シーン
・ラストの落ち

・夢を見て「ああよかった」と思っても それはホントに幸せですか?

*1:でも仕事しようぜ。新刊待ってるんだから

*2:そう思う。代表作はこれでいいよ!