短歌連作「ないない」
ぼくはとある会社の内勤職である。資格は不要だけどちょっと特殊な業界で、外勤から内勤に「飛ばされてきた」。
バリバリの外勤が出世コースやエリートとされ、内勤は若干下に見られる。
しかし、例えばオシャレな広告業も、印刷業がなければ作品を世に出すことはできないし、世界をまたにかける商社マンも運送業界がなければ商品を流通させることができない。
ものごとは上流と下流に分かれる。外勤を支える内勤は必要なのだ。
2012年になってまもなく1カ月。年末に2011年ベスト映画を書いて以来、「宇宙人ポール」の感想が進まないどころか年末から年明けにかけて仕事がばたばたしたり、プライベートで八方ふさがりなこともあり、ちっとも劇場に通えず日々をただ送る中で、過去に詠みたまっていた10首ほどに追加するという非生産的な毎日。自分でいうのもなんですが公私ともに落ち込んだりということのほとんどないストレスフリーな生活を送っているはずが、ちょっとダメすぎる毎日です。
個人的に、俳句というのは四季の美しさを素直な気持ちで表す17字。一方で短歌というのは自分の近況や深いところにある感情をまとめる31字。落ち込んだり、悲しかったり、元気が出ない自分をちょっと斜めから表現し、自分を奮い立たせる俳句以上詩未満の文章じゃないかなあ。
シロートの短歌愛好家で、ことばを31字にまとめているだけの趣味だけれど、形としては初の連作。
自分とその周囲にあったことをそのままだったりちょっと膨らませたり。ぺーぺーで、仕事はしているけどちょっと冴えてなかったり楽しかったり、そんな内勤の話を内々にまとめた20首「ないない」です。
「ないない」
- 流刑地のようなものだよ内勤は 異動の決まった主任が吼える
- 勉強をし直すならば最適とニコニコ顔の部長が僕に
- ネクタイを締めず通勤楽なれど「学校ですか?」とキャッチセールス
- タメ口のリクスー相手に「そっすね」と愛想笑い春がまたきた
- 「おいちょっと」名前呼ばれず小間使い いまだばいととおもわれている!?
- Tシャツにハーフパンツにサンダルに それでも次長は年収1本
- 狩り場では人気だけれど職場ではネコのほうが役立つらしいし
- 島流し悪くはないかも 派遣の子 最近彼氏と別れたみたい
- 「社員でも将来性はないですね」実は毒舌派遣軍団
- 月食が週に一回あったなら一度は誘えたはずだと悶絶
- 内勤と軟禁読みは似てますね 新入社員は今日も色白
- 丸の内OLみたいな新人のタイツも進化80デニール
- 「忘年会 年に一回スーツの日」妻に言い訳 先輩欠席
- 年末の優先出番は独身ですもちろん手当は弁当一個
- 平日のアフターファイブはジムにカフェ 薔薇色夢見てコンビニ通い
- ただひとり私服参加の合コンで笑顔もビールもとにかく渋い
- 週末だ!調子に乗って二日酔い マクド片手に楽しい出番
- この檻の向こうに見える景色には届かない手をマウスにそっと
- 転勤を脱北だとか脱獄と滑らぬ例えふらちなぼくら
- 鉛筆で腹を切るフリ物差しで介錯するフリここは内勤
半分ぐらいは悪くないかな、というのもあり、大半はちょっとイマイチかな、というのも。
それでも、ぼくは日々のちょっとしたことを31字にまとめていこうと思う。