キチガイのアベレージヒッター(映画「BLITZ」)
キチガイのアベレージヒッター(映画「ブリッツ」)
☆×3
キチガイ刑事ブラント(ジェイソン・ステイサム)は今日も深夜に車を盗もうとした若者をホッケースティックで悪即斬する。
そのころロンドン市警を狙う警官連続殺害魔「BLITZ」を名乗るキチガイが跋扈する。ゲイのナッシュと組んだブラントは、BLITZを追う。
ジェイソン・ステイサムといえば水球の元選手らしく恵まれた身体とカッコ良い頭皮、そしてボソボソ喋る典型的な英国男。「トランスポーター」シリーズで手段を選ばない元軍人の運び屋でブレイク。「アドレナリン」では公衆の面前で立ちバックしないと興奮できない変態キチガイも記憶に新しく、その後もコンスタントに暴れ者を主に演じている。
今作でももちろん凶暴。狂犬と刑事の相性は抜群で、これまでも数々のキチガイ刑事がスクリーンで暴れてきた。最たるキチガイといえば「ドーベルマン」だろう。
リーマンショックに端を発する世界金融崩壊により英国の存在が揺らいでいるのも背景にあり、学がないからギャングになるパーカーボーイやBLITZのナチュラルキチガイぶりも英国病を体現しているように見えた。
そんな斜陽の犯罪都市ロンドンの警察も厭世観が漂っていて、唯一マトモで優秀と思われるナッシュを同僚たちはゲイだからと差別する。
ステイサムも序盤でゲイ差別はするが、次第にバディとして認めゆく。この対比は面白いもので、公式では「人情味あふれる」とされているが正直そうとはまったく思えない。そして一番面白いところが、共に行動することで「リーサル・ウェポン」のように問題児色が多少薄められるのかと思いきや、反対に常識人のナッシュが狂犬色に染まるのも英国映画らしかった。
この作品、パンフレットにも見所が。深町秋生先生による寄稿「ハードボイルドという現代を写す鏡」。暴力刑事の存在から英国に限らず現代の病巣が世界に蔓延しているという指摘はふむふむととなった。
「『トランスポーター』シリーズ、ジェイソン・ステイサム主演」でなければDVDスルー必至だったこの作品、シュールな英国ギャグとでもいうような演出は見て損はなし。英国映画といえば斬新な作品が多い印象で、ダニー・ボイル、ガイ・リッチー、リチャード・カーティスといったそうそうたる面子が並ぶ。*1
この作品の監督エリオット・レスターも近年めざましい活躍を見せる「音楽PV出身監督」で今後が楽しみでも。そして脚本のネイサン・パーカーはダンカン・ジョーンズ作品「月に囚われた男」の脚本も手がけていて、要所で見せるシュールな笑いは彼ならではなのかと。
いずれも今後名前を見掛けたら追いかけてみたい新発見だった。