沈黙のおじさん(映画「アジョシ)

☆×5

ウォンビンウォンビンヴォォォォ!!
(漫画「ソラニン」で種田率いるバンドが「魂で弾け!」と即興で演奏した曲なので意味はありません)

すげえよ!韓国映画すげえよ!底力を見たよ!

あらすじ
世間を避けひっそり質屋を営むテシク(ウォンビン)。そこにはテシクを「アジョシ(おじさん)」と慕う少女ソミが通う。
ある日、テシクは「鞄を盗もうとした」と警官や女に囲まれているソミを見つけるが見ぬふりをする。
その後、ソミ母が麻薬取引現場からヤクを盗んだことがきっかけで、母娘が組織に拉致される。
「助けてアジョシ!」。ソミの叫びを聞いたテシクは立ち上がる…。

「韓国版レオン」といわれればそれまで。孤独な男が少女のために戦うプロットはよくあるし*1、実は軍人だったという設定*2もオーソドックスだ。しかし「オッサン」を意味する「アジョシ」の語感を変え、「デート映画にしてはいけない!」(パンフより「映画を見終わるとウォンビンのあまりのかっこよさに隣の彼氏がタコに見える」)というほど韓国に衝撃を与えた作品である。


(タコってマンソク兄演じたコイツのこと?)

日本語にすると「隣人のオッサン」となるわけで、確かにイメージ的にはソン・ガンホのようなイワオ的オヤジが人目を忍んでしょぼくれた質屋を営む男になるだろうか。事実、ウォンビンが「アジョシ」になるのは違うとも言われたが、トラウマを秘めた憂いの表情、極限まで言葉を使わず目で演じるのはウォンビンにしかできない。
それにソン・ガンホの「アジョシ」だと「昼間からマッコリをグビグビしながら暴利で腕時計を質草に取り上げるオッサン」になるのは目に浮かぶようだ

この作品が生まれるに当たって、韓国の土壌というのも欠かせない。ドロップキックする刑事、過去を秘めた元軍人の2点は日本映画では演出が不可能。
悪役に関しても同じで邦画では今年、でんでん(冷たい熱帯魚)、高嶋政伸(探偵はBARにいる)といったクセのある悪役が数々登場したが、韓国映画の邦画を凌駕する悪人量産ぶりにはかなわない。
今作でも麻薬密売製造、臓器販売業を営むマンソク兄弟の極彩色の悪役ぶりはテシクの黒い静謐さと対照的。サイコでクレイジーな弟と極悪非道な兄には容赦無用で、テシクが次第に兄弟を追い詰める冷徹なさまは背筋が凍るレベル。



(マンソク弟。このギョロ目サイコ野郎ぶりが素晴らしかった)

1対17全員皆殺しシーンもナイフでサクサク切りつけ致命傷を与えていくのだが、地味になりがちなナイフアクションで無駄のない洗練された動きを見せるウォンビンには胸躍る。

ここでマンソク兄から「お前誰だよ」と聞かれ「隣のおじさん」と答える無表情なテシクもまた壊れているし、それが最後の笑顔につながっていくと考えるとまた趣深い。

血の繋がらない幼子の面倒を見るハートフルストーリーより、隣人なだけの幼子を救いに悪者を皆殺しするバイオレンスのほうが断然残る作品じゃないだろうか。韓国の芦田愛菜ちゃんことキム・セロンちゃんもかわいかったことだし。*3

映画×短歌

前髪を下ろし黒ジャケ身に着ける 鏡の中にはボンクラがいた

*1:リュック・ベッソンものとか

*2:沈黙シリーズやトランスポーターとか

*3:勝手に命名