もうひとつのエクスペンダブルズ(映画「マザーウォーター」)
☆×2
(参考 「かもめ食堂」☆×5 「めがね」☆×4 「プール」☆×3 「トイレット」☆×4)
最初に言っておくと、荻上直子監督作品の*1「かもめ食堂」「めがね」「トイレット」シリーズと見られているが、まったく別物の「シリーズ出演者の同窓会」的作品である。
これに「プール」を加えたものが一連作品とカテゴライズされているのはキャストもさることながら、登場メニューをコーディネートしたフードスタイリスト*2飯島奈美の力であろう。
- 作者: 飯島奈美
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かもめ食堂
あらすじ:フィンランドで食堂を営む小林聡美のもとに、もたいまさこと片桐はいりが合流してゆるーく交流
メニュー:シナモンロール、塩鮭、おにぎり
プール
あらすじ:南国の島チェンマイのゲストハウスで働く小林聡美のもとに、娘役の伽奈が合流してもたいまさこと加瀬亮とゆるーく合流
メニュー:カレー、揚げバナナ
映画において食べ物とは重要だ。ジブリシリーズの目玉焼きのせパン(ラピュタ)、ジョニー・トー映画の家庭中華料理を見れば、ストーリー以上に「おいしそう!」が食欲をそそる。
この「かもめシリーズ」では、当たり前のメニューを当たり前においしそうに見せ、おいしそうに食べるという演出がされているが、今作では残念ながらその演出が欠けていたように思える。
マザーウォーター
あらすじ:バーを営む小林聡美とカフェを営む小泉今日子と豆腐屋で働く市川実日子のもとで、もたいまさこや加瀬亮や光石研がゆるーく交流
メニュー:水割り、豆腐、サンドイッチ(ただしメニューではなく登場するだけ)
このサンドイッチの使い方がもったいない限り。カツと思われるそれは、冒頭で加瀬亮がバーの壊れた椅子を修理し、小林聡美からお礼としてふるまわれたもの。
加瀬 「おいしい、メニューに入れればいいのに」
小林 「めんどくさいし」
このやり取りを見て脱力とした。あんなにおいしそうなものを「めんどくさい」で済ませ、俯瞰の長回しだけで終わらせる。小林聡美のセリフだけに雰囲気は出ていたが、それだけである。
かもめシリーズ1番手にして最高峰の「かもめ食堂」では、冒頭こそ食堂を掃除する小林聡美だが、コーヒーにはじまり揚げ物、おにぎりと調理シーンは極力カットせずに、*3「完成までの過程」を見せることで食べるおいしさを強調していた。
また、長回しと俯瞰は冒頭以降も続く。
もたいまさこ登場シーンでは*4穏やかな音楽が突然不穏なリズムを刻み、もたいまさこがただ歩く。
出オチかっ!
ここでも市川実日子が豆腐を切る様子は手元のアップではなく俯瞰の長回し。
もたいまさこが豆腐を完食して去るまで長回し。
キョンキョンのカフェでも*5豆を挽いてお湯を入れるまで長回し。
小林聡美が水割りを作るシーンも、氷を入れてウイスキーを入れてかき混ぜて水を注いでかき混ぜるまで長回し。
一方、一人暮らしのもたいまさこの食卓シーンでは調理シーンは省略で食べるシーンが長回し。
間とはいったい何だろう、と思うほどの長回しに若干退屈を覚えた。
映画とはシーンの集合体であり、シーンを形作るひとつひとつのシークエンスをつなげるだけではストーリーにならない。
と思うのだが…。
舞台設定も違和感があった。かもめ食堂のフィンランド、めがねの南国、プールのタイだったが、今回は京都。しかし京都ならではという映像もあまりなく、そこらへんの街に住む人たちのほのぼの交流ストーリーでしかない。
このシリーズは「日常から飛び出た非日常」を舞台にしているが、演出が一緒なだけに今作は「日常にいる非日常な人たち」にしか見えなかった。
カフェ、バーいずれも「こんなん潰れるわ!」というほどリアルに閑散とした店であり、日常にいそうな人々なのに生活感もなく、もたいまさこが迷い込んだインセプションの世界なのでわ? 小林聡美か加瀬亮が救いに来てるのでわ?と思ってしまったのは考えすぎだろうか。
散々クサしたわけだが、バーを静かに営む小林聡美のたたずまいは凛としたものだったし、市川実日子が豆腐を扱うさまも独特の清潔感があった。
もたいまさこの出オチを味わうシリーズ外伝として鑑賞するのがベターだろう。
おっぱいもゾンビもカンフーも爆発も筋肉も出ないが、「おいしいものをおいしく食べるために、調理シーンは必須であると分からせてくれる」スタッフの映画だし、「かもめ食堂」レベルを期待しただけに今回の「マザーウォーター」はいろんな意味で残念だった。
ワーストシーン
・キョンキョンのカフェ
「光石研がキョンキョンの様子をうかがう」シーンはお約束の色恋シーンと思いきや何もなかった。赤ん坊を連れて行かないから惚れてるのだろうと思ったら結局何もなく通うだけ。キョンキョン出演の意義が分からなかった。